【へき保のつぶやき】アメリカのへき地における健康支援

理事の櫻井です。

みなさんはアメリカのへき地、と聞くと、どのような風景を思い描きますか?

カントリーミュージックが好きな方は山の中の小さな町、ハワイに行ったことある方は人が少ないエメラルドグリーンの静かなビーチ、あるいは、テレビのドキュメンタリーに出てくるアラスカの鮭を獲る熊や、果てしなく続く平坦な畑を思い出すかもしれません。

アメリカは、日本の約26倍の面積に、3億3,500万人が住み、自然環境や植民と開発の過程、産業、文化、人種民族構成などにおいて特徴的な地域性があります1)2)。一方、地域性を尊重しながらもアメリカ合衆国として統一された総体として存在しようとする力もあります2)。
写真)メイン会場の様子

地域性を尊重しつつ、健康の社会的決定要因による国内の健康格差の縮小を目指した研究や活動について、アメリカから学ぶことは多いと期待し、5月6日から7日に、アメリカの2024National Rural Health Association(NRHA)の総会中に行われたHealth Equity(健康の公正)の分科会に初めて参加してきました。

NRHAは1978年に発足した団体で、アメリカのへき地に住む人々の健康状態について、都市部に住む人々よりも車の交通事故死率、糖尿病や冠状動脈性心疾患などの生活習慣病罹患率、若者の自殺率などが高いとウェブサイトに掲載しています3)。
写真)発表会場

分科会には、400人近くが参加し、地域住民とともに実践を重ねてきた発表者から、へき地の住民の最近の健康状態やその背景、支援策などが発表され、活発に意見交換されました。
健康状態としては、受診の遅れや治療中断によるさらなる健康状態の悪化、従軍時のトラウマを持った元兵士の薬物依存、子どもの虐待の多さ、うつ病の多さなどが報告されました。それらの背景としては、医療保険未加入率の高さや高額な医療費、医療機関や食料品店への遠さ、インターネットアクセス未整備による健康関連情報の不足、医療費の借金による生活苦、娯楽の種類の少なさ、性的少数者の受け入れにくさ、帰還兵や非英語圏からの移民の多さ、などがありました。

会場で出会った発表者や参加者の活動内容は、どれも医療従事者のみで行えるものではなかったので、職種を尋ねるようにしたところ、看護職や他の医療職もいましたが、日本では福祉職とされる人が多くいました。

支援策は、地域内の多職種が協働して生活基盤を整備し、暮らしや健康を守るようにしていて、その手法は、現在、日本で推進している地域包括ケアシステムと共通している、と感じました。

住民参加型の支援策としては、地域でグループを結成し、身体活動や食事会の開催、健康教育の実施、車を運転しない高齢者を主な対象とした移動販売車の導入、薬物依存(アルコールは薬物とはみなされないことが多い)防止も念頭に、若者が多様な自分の将来を描けるように、都市部の大学生と交流できる機会の設定、家庭で使用する言語による健康教育などありました。

政策レベルの支援策としては、移民の増加に伴い貧困率が60%を超えるミズーリ州のある郡では、生活困窮者が多い地区の住民から所得税を徴収しない策の報告がありました。この報告者によると、支援者は、個人、地域、政策レベルの支援策を適切に実現するために、地域で仕事をしている人や経営者らと積極的に話をし、住民のまだ満たされていない潜在的なニーズを把握するようにしている、とのことでした。
写真)街中を走るストリートカー

 へき地の住民の健康づくりは、住民の生活基盤への支援が欠かせず、多様な立場の人・団体同士の協働で成り立つことを改めて認識してきました。

本協会の今年度の目標は、へき地に行きたくなるきっかけづくりに力を入れていく、としていますので、へき地や離島で住民の暮らしを豊かにする活動をしている他団体と交流を持ち、会員の皆様へ情報配信をしていきたいと思います。


1)外務省(2023年12月1日).アメリカ合衆国. https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/data.html, (閲覧日2024年5月24日).
2)矢ヶ崎典隆. アメリカ合衆国の地域性と地域区分. 新地理 2006;54: 15-32. 
3)NRHA About NRHA Health Inequity. https://www.ruralhealth.us/about-us/about-rural-health-care. (閲覧日2024年5月24日).
 
 

NPO法人へき地保健師協会

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