【報告】2024離島保健師体験ツアーin知夫村
2024年8月19日~21日に、知夫村(島根県隠岐郡知夫里島)で保健師として働く魅力をご紹介させていただくツアーを開催しました。
知夫村では2023年度から常勤保健師が0名になってしまいました。保健師を募集しましたが、応募がないまま1年以上が経ってしまいました。その間、村役場職員と関係機関が協力・工夫して保健事業はなんとか実施していますが、村民の健康を持続可能な形で継続して支援していくには、やはり保健師さんの存在が欠かせません。
そこで、保健師確保を目指し、活躍する非常勤保健師の活動内容を見学したり、保健師と協働する関係機関や村役場職員から話を伺ったり、島で手に入るもので食事を作ったり。保健師活動と島の暮らしを少しでも体験できるように企画しました。
企画時点では応募があるのかと心配していましたが、定員5名の参加があり、盛況に終えることができました。開業保健師さん、離島保健師経験者さん、学生さんなど、男女様々な立場の方が参加してくださいました。本当にありがとうございました。
参加者のお一人からツアー報告を頂きましたので、ご紹介いたします。
へき地保健師ツアーに参加してみての学びや感じた事
今回へき地保健師ツアーに参加した理由としては、へき地の生活に興味があった事である。へき地は都会の生活とは異なり、その地域で生活を送る分には困る事はないが地域外に出る場合には交通に不便な地域である。へき地の魅力には、自然の豊かさや人口が基本的に少ない分、自動車や電気、ガスなどの建築物も少ないため排気ガスによる汚染が抑えられており空気が新鮮な所が思いついていた。また山や海、畑を活用した地域が多く特産物を用いた自給自足で生活をしている特徴がある。へき地に関する情報としては教科書や授業で学んだ事だけであり、書物やネットを関しての情報が少なかった事も今回参加する理由の一つでもあった。
今回訪問した離島は島根県の沖合にある隠岐諸島の知夫里島である。
知夫里島の特徴はコンビニや薬局、娯楽施設、信号機などがないが、保育園・小中学校・図書館・診療所・歯科診療所・農協・郵便局・漁協・駐在所・消防署・福祉施設・ごみ焼却場・ガソリンスタンドがある。人口は約600人程度、高齢化率が約47.0%、牛が約800頭、たぬきが約2000匹である。知夫村には7つの集落があり、古海地区・来居地区・郡地区・大江地区・仁夫地区・多沢地区・薄毛地区である。各地区に民生委員がおり住民同士で連携しながら生活を送っている。下水設備は島内全域で整備されており、公共交通機関として村営バスやタクシーがあるがバスは本数が少ない状況である。インターネットは光回線が使えるが、携帯電話の電波が悪い地域もあり、電話中に電波が切れることがよくあるようだ。知夫里島では3つの産業に力を入れており、畜産業と水産業、観光業である。まず畜産業では牛を島内で放牧しており至る所で牛が生活している。この牛は繁殖牛と呼ばれるもので黒毛和牛の母牛に子供を産ませて6〜10ヶ月齢で全国の飼育農家へ販売している「島まるごと放牧地」が特徴的である。また島内では農業も盛んとなっており、牛の牛糞は堆肥となり島民の農業にも直接活かされているためリサイクルされていると感じた。次に水産業では、畜産業と並ぶ伝統的な産業であり、漁業形態として小型漁船で一本釣りや刺し綱、採貝藻などの沿岸漁業である。しかし、漁業者の高齢化や担い手不足、水産資源の減少による漁獲高が伸びたり魚価の低迷や経費の高止まり、厳しい経営環境があったりという問題がある。この様な問題がある中で、新たな挑戦として水産加工施設を設置した事により地元の海産物を用いた燻製や干物、缶詰といった加工品を製造販売している。この事から、厳しい環境と向き合いながらも新たな戦略を考え特産品を更により良いものにしている事がわかった。次に観光業である。知夫里島では、2大観光名所である360°のパノラマ絶景地の赤ハゲ山や最大200mの断岸絶壁が2kmもある赤壁がある。これらが観光客に人気となっており、7月8月が観光客が多く見られピークとなっている。これらの事から、知夫里島では畜産業と水産業、観光業が伝統的な大きな産業となっているようだ。
教育施設では、高等学校がなく、知夫小中学校(一貫校)が1施設のみである。現在は全校生徒が32名であり、島外には海土町の県立隠岐島前高等学校、隠岐の島町の県立隠岐高等学校と隠岐水産高等学校がある。知夫里島では子どもが少ないのが現状にある事から島留学制度を掲げ、平成28年度から実施している人口減少対策となっている。受け入れ対象は小学5年生から中学3年生までの生徒を毎年6〜8名程度である。この事から、人口600人程度に子ども(小中学生)が32名程度となっており少子高齢化の真っ只中だと感じた。どの産業に関しても次世代の担い手が不足しており移住できる人材をもっと増やしていく事で伝統的な文化を継承できる事に繋がると改めて実感した。
生活環境では、上下水道は100%整備完了している。ゴミ処理の現状は一般廃棄物が本土へフェリーで運び中間処理、最終処分をしており年間約2000万円以上の運搬料がかかっている。可燃ごみでは可燃物処理施設の重油燃料が年間約400万円以上かかっている。この事から生活する上での最低限の環境電気、ガス、水道、ゴミ等)は整っているがゴミにかかるコストが大きい事がわかる。また社会資源として消防や警察署(交番)、JA支店、郵便局もある。そのため、現在生活は成り立っているがその分コストも大きいと考える。加えて、子育て環境としてちぶり保育園があり、定員は30名だが現在は21名通っている。制度としては、出産における宿泊費助成、妊婦健診診察費、満18歳まで医療費無料、保育料無償化、島前から紹介を受けた場合には本土・島後への医療機関への交通費助成などがある。この事から、島と島を結ぶのはフェリーしかないため、ちょっとした天候でも運転欠航なる場合もある事から宿泊制度や交通費制度を上手く活用する必要があると感じた。また知夫里島は各自宅から保育園までの距離も短いため行き気がしやすくメリットの一つであると感じた。
次に医療体制では、知夫村診療所があり、医師1名に対し看護師が3名が在籍している。診療所では主に発熱外来と歯科診療所の機能をもつ。緊急時は救急艇または救急ヘリで患者を隣島や本土へ移送するなどの対策をしている。高齢化率が47%の知夫里島では社会福祉法人知夫里社会福祉協議会がある。介護事業所が一つしかなく高齢者生活支援ハウスとして「招福苑」が設けられている。この施設では、通所介護、訪問介護、短期入所を主とした居宅介護支援事業所となっている事から生活支援がメインとなる施設となっている。この事から生活の場を支えるために医療と介護と地域を結び連携・協働しながらその個人や家族を支える地域包括ケアシステムが構築されていると感じた。また健康サロンとして全7地区で定期的に運動教室や通いの場を設けて介護予防を行なっている事も継続的な生活支援を担っていると学んだ。
今回のへき地見学ツアーに参加して、へき地に住む住民の生活背景や地域の魅力を感じる体験ができた。その場面として禁煙教室がある。地域で生活する住民の中から今後注意が必要そうな喫煙者を集める方法で行っていた。禁煙の必要性と現在どのくらいの肺機能があるのかを機器を通して確認し今後どうしていく必要があるかを実際に保健師とのやり取りを見学する事ができた。私自身が想像していた保健指導はとは異なっていたため、地域に寄り添ったアットホームな保健指導であり、住民も話しやすそうな場を作って行っていた事が印象に残っている。自然に話しやすい場を作る事、話しやすいようなコミュニケーションをとる事、話しやすい座席の位置など予め整えるのも工夫の一つだと改めて学んだ。
最後に、今回へき地保健師ツアーに参加させて頂き有難う御座いました。また知夫里島の職員様や住民の方々も大変有難う御座いました。実際に体験した事や見学した事は保健師を目指す者として貴重な学びになりました。今後は学業や現場での業務に活かすために常に試行錯誤しながら判断して行動します。
北里大学保健衛生専門学院
保健看護科3年 遠藤慎治
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