【開催報告】元気が出るおしゃべり会 2020.7.11(土)

 つながりが明日への活力になるよう離島の保健師から話を聞く会を開きました。

 現役の離島保健師と元離島保健師が対談を行い、参加者の方の質問に答えていきました。

 気楽に気軽にへき地保健師やその他の地域の方が繋がり、元気が湧いてくる会でした。その様子を少しでも感じていただければ幸いです。打ち合わせの内容も加えましたので、参加した方にも楽しんでいただけると思います。

*本茶話会はcovid-19のクラスター発生前に行われました。


「Yoron Island Japan in 8K HDR」(国際観光映像祭「ART&TUR」フィルムロケーション部門2位)

 今回は、鹿児島県与論島の林保健師と元東京都新島村の太田保健師の対談です。

(※以下、敬称略)


林:みなさん、こんにちは。今回は、ある町の物語というように聞いていただけたら嬉しいです。私は、鹿児島県にある沖縄県との県境の小さな島で30年以上保健師をしています。この島は、私が生まれて育った場所です。当時、島には保健師がいなかったので、離れた島にいる県の保健師に助けてもらいながら、保健師活動を続けてきました。与論島は、約5千人の島で、現在は保健師4名となりました。



「New TOKYO(N4 日本工学院専門学校)映像のチカラコンテスト2018」

太田:みなさん、こんにちは。私は、5年間東京都新島村の保健師をしていました。人口約3千人の村で、保健師は3名でした。村の保健師活動で感じた課題を大学院修士課程で研究し、現在は大学教員として、研究を続けるとともに離島の経験を教育に活かしています。

新島写真(羽伏浦海岸)

太田:事前に打ち合わせを行いましたので、林保健師の活動についてご紹介します。林保健師は、昭和61年に与論島で一人目の保健師として着任し、島の人に保健師とは何をする人かというところから、活動を通して着実に島に根付かせてきた方です。その活動により、住民には保健師といえば林さんという存在となり、保健センター勤務を経て、今年から役場の障害部門を担当しています。ベテランとなっても後輩保健師の相談に乗り、手本となること以外にも、町の保健活動を向上させ、自身の行政職や保健師としての技術向上や次世代にへき地保健師活動をつなぐ視点も持ちながら積極的に活動している方です。


新型コロナウイルス感染症の危機をチャンスに変える活動

林:新型コロナウイルス感染症の影響で住民の意識が変わりました。手洗い、手指消毒、マスクの着用、換気を徹底する意識を住民が持ちました。また、住民が事前に電話連絡してから役所に来るということが以前より増え、事前に必要書類や制度を詳細に確認して住民を待たせることなく短時間でスムーズに対応することができるようになりました。これをチャンスと捉え、意識や行動が定着すると良いと思います。 

 また、与論島は、高齢化率が高く、医療機関は1か所であり、新型コロナウイルス感染症が蔓延してしまうと医療崩壊や住民の生命の危機等のリスクが高いことが考えられます。そのため、観光が第一産業の町ですが、マラソンのイベントを中止するという決断をしました。その際、後輩にも後押しされ、保健師として首長にリスクを伝えました。

 県の研修が中止になり残念でした。鹿児島県内ではオンラインの会議も中々進みません。

 島では、インターネットよりも口コミの方が早く、メディアの公表の方法によっては町内で誰が感染しているかまで分かってしまいます。それを偏見とするか心配してくれていると捉えるかは難しいところだと思います。

太田:保健師として首長にリスクを伝えるというのは、林保健師の長年の活動で築いた役割や職位によってできた素晴らしいことだと思います。新人や中堅の保健師が林保健師と同様に直接首長に伝えることは難しいかもしれませんが、林保健師のような先輩や課長等を通して伝えていくことはできるかもしれません。

 研修が中止になったことについて、開始前に林保健師とお話しましたが、新型コロナウイルスを機にさらにオンライン(web)の研修や会議を増やすことができると、へき地でも会議や研修の参加が容易になります。


【参加者より質問】

質問:新型コロナウイルスの影響で従来の保健師活動ができなかった事業の工夫点はありますか。(現職へき地保健師)

林:中止にした事業はありません。身体的距離を保ち、検温、手指消毒、マスクの着用、換気等を徹底して実施しました。


質問:前回(6月6日)の交流会からの状況の変化はありますか。(学生)

林:緊急事態宣言解除後は、住民の気が緩んだ部分もあるかもしれません。しかし、選挙の際に期日前投票に来る方が通常より多く、多くの人が集まらないようになっています。感染症対策は継続して行っています。


質問:ファミリーサポートセンターのサービス提供会員が都内へ上京して帰島した後の保育支援活動には、活動自粛期間を設けていますか?1歳児、新生児がいる利用会員さん側が「提供会員さんの上京について、コロナのことは何も気にしないので帰島後直ぐ支援に入ってくれて構いません。」とおっしゃっています。(現職へき地保健師)

林:町としては2週間の待機はしない方針です。自主的に自粛して頂く分には良いと思いますが、町として強制はできません。個人的には、自粛していただくと、より安心だと思います。



与論写真(保健センターから見る沖縄本島と製糖工場の煙突、夕日)

福祉部門への異動とモチベーションの保ち方

林:当初は、保健と福祉で町のことを考えたいと思っていました。自身が福祉部門に異動することによって、保健部門の後輩保健師と連携できると思いました。しかし、事務職員になったため、事務作業が多く、保健と福祉で話すという余裕はありません。県から町への委託業務も多く、専門職も事務職も市町村業務と都道府県業務の両方を行っています。今は楽しめる余裕がありません。


質問:30年以上与論島で保健師を続けてこられたとのことですが、そのきっかけが知りたいです。また、その時々でキャリア設計をどのように考えていらっしゃいましたか。(学生)

林:色々な人に助けてもらったことが大きいと思います。昔は、国立保健医療科学院に1か月研修に行かせてもらえました。職員や住民、皆の理解があることや住民の喜ぶ顔が見られることがモチベーションにつながっていると思います。研修は、他の分野の研修にも参加したり、島に来る専門家の話を聞いたり、へき地保健師協会のような外部の人とつながり刺激を受けることが大切だと思います。また、自己評価を高く保つことが大切だと思います。


太田:研修に1か月行けるのは素晴らしいと思います。私は、年間1~2回の研修予算がありましたが、それでは不十分だと感じ、交通費も含め自費でかなりの金額や休みを研修に費やしました。また、林保健師同様に他の分野の研修にも参加させていただき、来島した専門家にお話を伺うようにしていました。今後はオンライン研修等も上手く活用できると良いと思います。自己評価を高く保つことの重要性について、保健所OGのサポーター保健師の方に「ちゃんと活動しているから見ている人は分かっているし、仮に誰もそれが分からなくても自分が分かっていれば良い。」と教えていただいたことがありましたが、とても難しいと思いました。ラダー等のツールを用いて客観的に自己評価する方法を試みましたが、それでも当時は不安がありました。今思うことは、それを継続していくと、数年後に成果が出たり、新たな課題に気づいたりすることがあるのではないかと思います。


今回は、林保健師から貴重なお話を伺うことができました。ありがとうございました。

(記 東京慈恵会医科大学 医学部看護学科 太田あゆ美)

NPO法人へき地保健師協会

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